脳力革命
脳力革命(文芸春秋2008年5月号)の抜粋
ひらめきの回路を強化しよう・・・茂木健一郎〔東大〕
中高年の知識や経験こそ、創造性の源だ!
- 脳の学習には、「教師ありの学習」と「教師なしの学習」がある
- 「教師ありの学習」・・・間違った解答をしようとすると誤差を教えてくれる学習
- 「教師なしの学習」・・・何が正しいか決まっていないことについて学習する
- 「教師なしの学習」・・・脳を喜ばせる「学びの習慣」が必要・・・ドーパミンによる強化学習
- 達成感や誉められた時に喜びを感じる。その時に脳内では報酬系という場所から「快感」を生み出す神経伝達物質のドーパミンが分泌される。
- 脳はドーパミンが分泌されるのが、どんな時だったかを克明に記憶し、そのたび毎にその快感を再現させる。 そして、脳内の神経細胞(ニューロン)がつなぎ変わり新しいシナプス(神経回路網)が生まれる。
- この「試行錯誤を経るうちに脳内の特定のsシナプスが強化され一つの行動に上達する」という一連の流れを脳科学では「強化学習」という。
- ドーパミンによる強化学習のサイクルが回り始めると、脳は自由自在に変貌していく。
- 棋士の羽生名人の脳は、どんな状態でも、頭の中の将棋盤で戦術が練れる”将棋脳”に変わる。/li>
生まれつきの得手不得手はない
- 不得手なのは、ドーパミンによる強化学習のサイクルがうまく回っていないからだ。
- <やっても楽しくない→楽しくないから結果が出せず→苦手意識が芽生える→本当に不得手になってしまう>という悪循環に陥る
- 強化学習のサイクルを回すには、どうするか?
- 積極的に取り組める課題を探す
- その上で、自分自身に適度の負荷をかける
- 苦しい状況を経験すればするほど、その後にやってくる喜びは大きい
- 手に負えない難題だと嫌気が差すので自分の実力を少し超える程度の負荷をかけること
- 具体的には、作業の制限時間を決めるタイムプレッシャーを取り入れる
- あるいは、やるべき作業量を増やす
- 作業に没入して、「ステュディオス」(生き生きと熱中して幸せな状態)な状態になる
創造性は経験から生まれる
- 新しいものを生み出す脳力は体験の蓄積に比例する
- 脳の側頭葉に蓄えられた記憶や経験が前頭葉の方針に従って編集され、新しいものが生み出される。それが創造なのです。
- 新しいものが生み出される必要条件は、「経験を蓄積すること」と「こういうものが欲しいというビジョンや欲求を持つこと」
- 目の前の目標達成にばかりとらわれるのではなく、リラックスな状態にいたほうが新しい発想が生まれる
- ひらめきの回路を鍛える為には、「釣りをする猟師の心境でいること」、すなわち、心身ともいつ魚の当たりが来ても大丈夫な状態にしておき、面白い出来事を感じたら、目の前の仕事とは関係なくともいち早く反応すること。
- ひらめきや創造性をはぐくむ為には、時おり関係ないことに取り組むこと
- メタ認知が必要。言い換えると、自分をあたかも外から見たかのように観察すること。
- メタ認知を高める方法は日記を書くこと
バランスとコモンセンス(常識というより実感)こそが大事
- 脳を鍛えることと育むことのバランスが重要
- 読み書きそろばん的な教育と、総合学習的な教育のバランス
前頭前野が思考力向上の鍵・・・川島隆太(東北大)
毎日の読み書き計算でボケも改善
- 閉経前の40代後半から50代半ばまでの女性は脳の神経細胞の減少スピードが緩やか。
- 一般的には、20歳を越えた時点で、脳の神経細胞の減少スピードは直線的
- ところが、脳の働きは脳の神経細胞の減少と平行して衰えていくわけではない
- 知恵や知識テストでは60代や70代がピーク。つまり、脳の働きは加齢とともに低下していくわけではない。
- 前頭前野(おでこの裏側)に注目しよう。ここは思考力や想像力記憶学習、自発性、コミュニケーションなどの役割を担当。
- 前頭前野の働きも20才から成績が直線的に下がる。しかし、知恵や知識は歳とともに増える。
- 脳の老化は前頭前野の機能低下のこと
脳を鍛える三つの原則
- 脳は使えば使うほど働きが良くなる
- 脳の働きとは、複数の神経細胞を結んだネットワークを電気が流れること
- 細胞同士をつなぐ神経線維が太くなったり、太くなる
- 神経細胞と神経線維のつなぎ目であるシナプスの数が増えて情報が流れやすくなる
- 読み(音読)・書き・計算で脳を鍛える
- 音読の場合、見て、口で音を出し、その音を耳で聞き、認識するので黙読するより3倍の効果あり
- 文字を書くのは、文字を見ることと、手を動かすこと
- 計算は、複雑計算より単純計算のほうが脳は活性化する
- フェース・トゥ・フェースのコミュニケーションで脳を鍛える
- 人と会って話をするとき、相手の言葉を聞くだけではなく、
- 相手の表情や身振り口調など、
- 非言語的コミュニケーションにより情報を得る
- ゲームをしながら、コミュニケーションを図る
- 家庭での会話が重要。表情豊かな
- 目的を持って指を使うこと
- 単に指を動かしても前頭前野は活性化されません
- 料理を作ったり
- 絵を描いたり
- 音楽を演奏するなど
- 目的を持って指を動かすことが重要。つまり、脳の色々な機能を連携して動かすことで、前頭前野は活性化される
認知症は防げるか
- 軽度認知障害と呼ばれる人が何もしなければ、2割の人が1年後には認知症になるという調査結果が出ている
- ただし、読み書き計算トレーニングをしたところ、7年経過しても9割の人が健康でいるという結果
「脳トレ」は全身運動
- 読み書き計算を中心とした「脳トレ」はスポーツにたとえると、ジョギングのような全身運動。毎日、続けることによって基礎体力が上がるし、ウォーミングアップにもなる
- 一方、集中して読書したり、仕事をしたりという行為は、野球やサッカーといった競技と同じ
- 実験で、2分だけ一桁の計算問題を解いてもらい、その後単語を30個覚えてもらう記憶力テストと迷路をクリアする空間人知力テストを行なったところ、小学生から大人まであらゆる世代で、何もしないときと比べて、成績が10%アップした。
- 「脳トレ」の時間はそれぞれ個人差があるが、長時間やるのは無駄。音読の時間、計算の時間も飽きる手前でやめる程度がいい。
脳が活性化しないIT社会
- ITは本来の脳の機能をコンピュータにやらせることから、脳の機能を失わせるもの。漢字が書けなくなった大人が多いのはそのため。
- 昔は会いに行かなければ話ができなかったのに、電話ができ、最近はメールとなった。これは脳にとって最悪の事態。
- 携帯電話の普及により、電話番号を覚えなくなった。
- 買い物でも暗算をせずに、いきなりレジで計算結果を見るだけ。
朝食抜きは能率が下がる
- 昨年の栄養・食糧学会で発表された研究によると、バランスよく朝食をとったグループは、おにぎりだけのグループだけと比べ、知的作業量が増えたということ。
- 脳科学の常識から言えば、神経細胞はブドウ糖を使って働くので、米やパンなどの炭水化物を食べていれば十分のはず。ところが、この発表はタンパク質や脂質も取らないと脳が働かないということを示唆している。
国民よ、脳のためにもっと眠れ!・・・神山 潤(東北社会保険病院副委員長)
ひらめきも学力も生産性も睡眠で決まる
- 夜更かしによる生体時計の変調が子どもの体と脳の成長に悪影響を与えている。
- 人間は寝て食べて、初めて活動できる動物であることを認識しよう。
- ヒトは24時間いつも同じ調子で動けるロボットではない。
- 自律神経、体温、睡眠ー覚醒、各種のホルモンなどおよそ一日の周期で変化するさまざまな生理現象があって、そのリズムは全て脳にある生体時計からの命令で刻まれている
- このことを「サーカディアンリズム」あるいは概日リズムと呼ばれている
- 「サーカ」はラテン語で「およそ」という意味。「ディアン」は日に由来する言葉。
- 体温は、明け方に最低になり、午後から夕方になって、最高になる。言い換えれば、最低体温に達した後ヒトは目覚め、最高体温に達した後眠りにつく。
- ヒトは基本的には昼間は起きていて夜に寝るのだが、ヒトは午後2時と午前4時に眠くなるもの。
- 午後2時に眠くなるのは、昼ごはんを食べたからではない。統計的にも、交通事故とかさんぎょうじこがこの時間帯に多い。
- 一番目が冷めているのが午前10時〜12時で次に夕食前。
- 成長ホルモンは夜寝入って最初の深い眠りの時に出る。
- メラトニンは朝目が覚めて14〜16時間後の暗くなって出てくるホルモン。
- コルチコステロイドはストレスホルモンと呼ばれる重要なホルモンだが、朝たっぷり出て、午後から夕方にかけて下がっていく。
- ヒトの生態時計は両目の奥にある視床下部の一部、両目からの視神経が交差するそのほぼ真上、ほぼ正中近くに左右一対ある視交叉上核と呼ばれる部分にある。
- 生体時計の一日は24時間よりチョッと長い。例外的に短い家系もある。平均すると24,5時間。
- 生体時計の周期を地球の周期にリセットさせる因子がある。それは、朝の光、食事、社会的環境。中でも朝の光による同調作業が効果的であることがわかっている。
- 夜の光には、生体時計の周期を長くさせる作用がある。すなわち、生体時計が昼間だと勘違いするのです。
- 夜に光を浴びると、24.5時間男周期が更に延びて25時間にも26時間にもなる。夜更かしすると睡眠時間が足りないのと生体時計の狂いが生じ、朝寝坊してしまう。
- これが、「内的脱同調」というもので、慢性時差ぼけです。起立性調節障害、慢性疲労症候群、抑うつ傾向、活力消耗などの原因とされている。
光がホルモン分泌を左右する
- 日中の光はメラトニンというホルモンの分泌に重要な役割を果たす。
- メラトニンは脳の奥深くの松果体から出るホルモンで、大きな働きは3つ。
- 抗酸化作用・・・酸素の毒性から細胞を守る、すなわち、老化を防ぐ。抗がん作用もある。
- リズム調整作用・・・眠気をもたらす。
- 性的成熟の抑制作用
- メラトニンは目覚めて14〜16時間後に分泌。ただし、夜になっても明るくしていると分泌量がガタンと落ちる。
- 朝の光はセロトニンの働きを高める。セロトニンは心を穏やかにする神経伝達物質。セロトニンの調子が悪くなると、精神が不安定になる。うつ病の薬はこのセロトニンの濃度を高める。
- セロトニンを減らされると、動物は攻撃性が増し、社会性がなくなり、孤立したりする。
- 実験結果
- 集団で暮らしている猿の一匹にセロトニンを下げる薬を注射する。
- すると、仲間に対して攻撃的になり、集団での地位が下がる。
- セロトニンを高める薬を注射すると、仲間に毛づくろいするなどサービス精神が旺盛になる。そして、社会的地位が上がる。
- 睡眠時間と学業成績
- 日本の小学生高学年の調査で、成績上位群の5割は午後9時半前に就寝。
- 午後10時半以後に就寝する子供は、成績上位群にはいなかった。
- 米国の高校生の調査では、睡眠時間が短いほど学業成績は悪い。
- 睡眠時間が4〜6時間に制限すると、認知機能が下がり、、2週間後にはまる2日間徹夜したと同程度の認知機能に落ちる。
眠りが「ひらめき」を促す
- ドイツのリューベック大学の実験結果・・・眠りとひらめきの関係
- 1のグループ・・・朝、課題を3回訓練し、その後寝ないで8時間後の夜、課題に再挑戦する。
- 2のグループ・・・課題訓練を夜にした後、徹夜して8時間後に再挑戦する。
- 3のグループ・・・課題訓練を夜にした後、8時間眠った後、翌朝に再挑戦する。
- その時、課題に含まれたカードの配列に気づくかどうかの「ひらめき」の割合を比べた。3のグループが最も高かった。
- 眠りが新しい記憶の表象を再構築することで、情報の把握を導き、ひらめきに満ちた行動を促す結果と報告された。
- 短時間の昼寝がそのあとの作業効率を高めることは、解っているが、10〜15分程度のうたたねがいい。布団を敷いて30分以上寝るのは良くない。
- 寝る前にお茶や紅茶を飲むのはいい。カフェインが十数分後に効いてきて、すっきり起きられる。
- 寝るのは午後二時ごろがいい。
リズミカルな筋肉運動と朝食を
- リズミカルな筋肉運動はセロトニンの分泌を高める。また脳の働きにも重要な役割を果たす。
- 中年期に運動していないと、運動している人に比べて、3.8倍アルツハイマー病にかかりやすい。
- どんな運動がいいか?
- 手を振ってさっさと歩く
- よく噛む・・・セロトニン活性を高める。脳血流を良くする。
- 深呼吸
- 腹時計のメカニズムが解明されてきた。・・・ある時間に食事したことを、ある脳細胞が48時間、覚えていた。言い換えると、生活リズムを整える上で、いつ食べるかが重要になってくる。
- 朝、決まった時間に、よく噛んで、なおかつ、人とコミュニケーションしながら食べることで、脳は活発に動き出す。
天才を作る6つの条件とは?
野心、知識、執着心、楽観、論理的思考、そして、・・・
- さまざまな発見、新規事業の取組など、未知の問題と取り組む場合、必要な知的能力は一つだけではない。
- 野心こそが、すべての出発点。米プリンストン高等研究所教授アルマン・ボレルの数学者のケース:
- 子供の頃から数学の問題は、読み終わった瞬間に、もう解けているような天才的頭脳の持ち主だった。
- ところが、20代後半になっても、大した研究ができなかった。
- 何が何でも、この問題を征服してやろうという意欲はなかったと言う。
- ある時、ボレルはそのことに気づいた。意を決して目標を定め、そこから、次々に大仕事を成し遂げていった。
- 野心は何だっていい。独創的なものを成し遂げるための第一条件。
独創性は衰えない
- 第二の条件は知識。
- 過去からの膨大な知識を自分のものにするには、粘り強い努力が必要。
- 天才的な能力を持っている人は、山ほどいる。しかし、粘り強い努力は誰もができるわけではない。
- 天才とは天才的な努力をする人のことである。
- 今では各分野の研究が進んできているため、既成の理論を勉強するのに20代後半から30歳までになってしまった。以前は20代前半でできていたのに。
- 独創性そのものは年齢とは関係ない。
- 創造する力の第三条件は執着心。
- 頭の働きは、情緒的部分と論理的部分に分けられる。ひらめきはと論理的部分から生まれてくる。
- 挫折、失敗、自己嫌悪などを乗り越えるのは体力と気力。
- 歳をとって独創的な仕事ができなくなるのは脳が衰えるのではなく、体力と気力が無くなるからだ。
- 歳をとると、経験と知識の豊富さのため、理解力が速くなる。
- だから、歳をとった経験者と若い者がチームを組むのが最強のチームとなる。
勇気と楽観が脳を全開させる
- 第四の条件は楽観的であること。
- 楽観的でないと大きな仕事をやりぬくことはできない。
- 好運に出くわすには、愚直に、楽観的に前進するのみ。
- 楽観は脳を全開にする効果がある。
- 楽観を育てるには褒めることである。
日本の自然の美が天才を生んだ
- 第五の条件は「美的感受性」。
- 美的感受性は生まれつき備わっているのではなく、家庭、環境、教育によってはぐくまれるもの。




